衛を心思う

「直正はいけないことを致しました。お仕置きされても仕方がないと思います。」
「うむ。殊勝な心がけだの。」
「でも、先にセリを届けさせてください。お叱りは、一衛にセリを届けたら、きっと受けます。」
ぺたりと手を付いて懸命に頼み込む直正に、容保は声を上げて笑った。
「頼母。その方の負けじゃ。小さくともさすがは会津武士の子じゃ。余が仕置きを考えてやろう。」
藩士が野原を探して集めたセリは、その場にうずたかく積みあげられた。
「獲物の入った籠を空にしてセリを詰めてやれ。直正に背負わせよ。」
「はっ。」
セリが詰め込まれた背負い籠は、直正の背丈の半分ほどもあり、子供の背には重く直正はよろめいた。
「よいか?このセリを早く届けてやるのだ。さすれば、追鳥狩場へ踏み入った事は不問に致す。籠は重かろう?出来るかな?」
「はい。必ず!若殿さま、ありがとうございます。御家老さま、皆さまもありがとうございます。」
直正は周囲に深々とお辞儀をすると、大きな籠を背負って家路を急いだ。
一衛が待っている。
直正は、武道場で汗を流していた。
友人が数人、顔色を変えて雪崩れ込む。
「直さん、大変だ。一衛が泣いている。」
「一衛が?どこで?」
「橋の上だ。台風のせいで水かさが増しているから、子供達は川の方へは行かないようにと言われていただろう?」
「ああ。それなのに何故一衛が?」
「川沿いの畑で、仲間と遊んでいたらしいんだ。それで飛ばしていた竹とんぼが、鶴沼川に落ちたらしい。遊んでいた子たちが知らせに来たんだ。」
「落ちた竹とんぼを追い掛けて、橋の上で足がすくんだのか。」
「大方そうだろう。一衛は幾つだった?」
「5つになったばかりだ。」
「小さい一衛には、すぐ傍まで水が来ているとだろうな。早く行ってやらねば。」
「あそこは橋が細いだろう?落ちたら大変だ。」
「すぐ行く。」
話をしながらそこそこに木刀をしまうと、直正は脱兎のごとく走り出していた。
皆が後を追う。
一衛が、ここのところ毎日、竹とんぼを飛ばして遊んでいるのは知っていた。
幾つもこしらえてやったら大喜びで、直正が藩校で学ぶ間、近所の子供たちと仲良く遊んでいると聞いていた。
いつも自分の後ばかりついて来るので、他の友達とうまく遊べない一配して、何とか友達を作ってやろうと直正なりに考えたのだった。
「一衛の為に作ってくださったの?こんなにたくさん直さまが?」
「そうだよ。わたしが日新館に行ってる間、一人で待っている一衛が寂しくないようにお友達の分もね。父上のように上手にはできなかったが、いくつも作ったから、什の仲間と飛ばしてご覧。」
「ありがとう、直さま。」



2017年05月29日 Posted by身内同然と思 at 12:48 │Comments(0)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。